■絢爛舞踏祭・R-18 「Rendezvous」(PC×ヤガ)■
「・・・最強の絶対物理防壁だな」
俺はそう言って、ヤガミの眼鏡を注意深くはずした。わずかに触れた黒い髪は、思ったとおり最高の指通りだった。
レンズ越しじゃない枯草色の瞳が、一見まぶしそうに、俺を睨む。その表情には構わずにそのままキスをして、いつも辛辣な台詞ばかり吐くうすい唇のきわを、舌で何度もなぞり、濡らした。
ようやくのことで身体を離したヤガミが、押し殺した低い声で毒づく。
「・・・こんな事のために呼んだんじゃないぞ」
個室にじゃない。この世界に、ってことだ。
「だから、避けてた?」
俺が笑うと、ヤツは拗ねたような顔をして目を反らした。
たぶん大丈夫だろうと思う場所に俺は眼鏡を置き、ヤガミのダブルになっている黄色いジャンパーを有無を言わさず脱がせて、ベッドの端に放り投げた。
「・・・なぜ、俺なんだ? 本当に俺でいいのか?」
執拗に食い下がるヤガミに、俺はダメ押しの一言をぶつけた。
「お前だから、イイんだ」
黒いジップアップのボディスーツに手を触れ、わざとゆっくりした手つきで喉元のジッパーを降ろした。こちらの勝手な期待どおり、細身だが筋肉質の綺麗な身体をしている。それが、はだけたスーツから覗いているのがなお好い。そこへ指を滑り込ませながら、俺は続けた。
「───言ったろ、お前が呼んだから、俺はここへ来たんだ。お前が必要だと言ったから・・・俺はそれを忘れてない」
そう言って、俺はもう一度、今度はわざと唇の端に、キスをした。
ボディスーツはそのままにして、黒いスラックスに手をかけ、脱がせると、何の象徴なのだろう、ベルトにまつわりついている鎖が、床に当たって音を立てた。
「お前が望む世界を創る、俺はその手助けがしたい。俺の願いはそれだけだ。俺にとっちゃ、お前だけが───世界そのものなんだ」
「・・・・・・」
耳元で囁いた言葉への、答えはなかった。
その代わりに、ヤガミも黙りこくったまま俺の軍服に触れ、ボタンを外し、ベルトをゆるめて、ぶっきらぼうな仕草で同じ事を返してきた。
「・・・・・・」
わずかに眼をすがめたまま視線を反らさないヤガミへ微笑んで、俺はヤツの姿を俺の身体で隠すように抱きしめた。
「だから・・・抱かせてくれ。俺が望む世界を。」
それ以上服を脱ぐのももどかしく、俺たちは消灯後の薄暗い士官個室のベッドにあがり、俺はヤガミを抱いた。互いに服を脱ぎきれなかったのは、いまさらだったが、どちらも素裸になるのが気恥ずかしかったというのもある。せめて上着で、自分たちの行為を隠したかったのかも知れない。だけじゃなく、ヤガミのヤツが、俺の身体に腕を回す代わりに、俺の胸ぐらを両手で掴んでいた。太陽系総軍のムダに豪奢な軍服に、ヤツの指が食い込んでいた。
この期に及んでまだ悔しそうな顔をするヤガミに、俺はキスばかりしていた、ような気がする。
そして、太陽系総軍の軍服を羽織った俺がヤガミを抱いている様は、いったいどう見えるんだろうな、とか。
それでも、かすれた息が狭い空間に何度もこだまし、時折、短い声がそれに混じった。俺はヤガミのすべてを肌で確かめ、そしてヤガミも、俺をさらに燃え上がらせるようなマネをしてくれた。触れて、扱いて、なだめて、解して、昂ぶらせて、濡らし、開いた。
いよいよもって身体を重ねると、ヤガミは、はだけたままの俺の軍服を強く握りしめ、歯を食いしばってそれに耐えた。力を抜こうとして何度か失敗し、さらに強く俺の軍服をひきよせて、ようやく全部を受け入れた。その表情も、その反応も、内部の熱も濡れた感触も、とても噂されているようなサイボーグには思えない。───もっとも、それは俺も同じ事だが。こいつが最高級のサイボーグなら、俺の義体は戦闘用のセクサロイドだ。こんなアイロニカルなカップルはそういない。
時折デスクのあたりから聞こえるBALLSのかすかな鳴き声に重なるようにして、俺たちの吐息が、かすれた声が、いっそう荒く、速くなっていった。
俺とヤガミはまるで、強く反発し合いながらもどこかで引き合うふたつの磁石のように、互いの身体に力を込めて、引き寄せ、あるいは突きのけていた。俺がベッドに手をついて身体を離そうとすると、ヤガミの腕がつかんだ軍服で俺を無理やりに引き寄せる。だが俺がもっと奥へ入ろうとすると、苦痛の声とともにヤガミが拳で俺の胸を押し返し、圧力から逃れようとする。一種の膠着状態。なかなか重ならない、あるいは重なったまま動きがないトポロジー戦闘。
それでも、どちらもいつまでもそうしていられるものじゃない。───もっと欲しい、もっと動きたい、という俺の欲望が一点に伝わり、ヤガミもまた、それを感じたようだった。
ヤツは苦しそうに目を開けると、睨みつけるように俺を見た。
「・・・来いよ」
「・・・いいのか」
いまさらのように訊ねながら、俺はもう一度、ヤツの肌にキスをした。答えはなかった。
「───それじゃ、遠慮なく」
それ以上反発するのはやめて、俺はヤツを強く引き寄せた。
頭の中で、なぜか鮮やかなイエローと深いブルーが入り乱れ、極彩色のヴィジョンになっていた。
ふたりともに達した瞬間、ブツリ、とどこかで何かがちぎれたような衝撃があった。それも仕方ないか、とは思ったが、しかし互いに痛みもそれらしい感触もない。訳が分からないまま、いったい何だろうと俺たちは顔を見合わせた。
「・・・っ」
ようやく息を整えた、呆けたような表情のヤガミが、先にその正体に気づいた。乱れた髪の間から覗く、眼鏡なしの瞳が、驚いたように見開かれた。
やっと俺の軍服を離したばかりの、自分の手を見つめている。
ヤツが、力みすぎてこわばった指を開くと、太陽系宇宙総軍のきらきらしい軍服のボタンが、雫のようにぽとりとそこから落ちた。
「───おいおい・・・」
俺は、慌てた。
無我夢中で、引きちぎったってのかよ。見ると、それが止めていた金モールは根元からちぎれて、むなしくヤガミの手に絡まり、垂れ下がっていた。
やべェ、目立つ。この軍服を着崩しているヤツは多いが、こいつをブッちぎったヤツはいない。
「・・・・・・」
俺の動揺が伝わったのか、まだ身体は繋がったまま、ヤツは気まずそうに目を反らした。
「・・・すまない」
「いいけどよ・・・」
繕ってくれとも言えないしなぁ。コイツにも、誰にも───。
「・・・・・・」
見ると、ヤガミは困ったように、蒼く透き通ったそのボタンを再び拾い上げ、手の平で転がしていた。
それを指先ではじいて、俺は言った。
「今日の記念に進呈しようか?」
「そういう冗談は好きじゃない」
紅潮した顔のまま、ヤガミは俺を睨みつけた。
idle_talk|Clumsily Affection