【百物語】
江戸時代に流行した怪談の趣向。
百本の蝋燭ないし行灯を灯し、数人が集まって怪談を披露する。一話語り終えるごとに灯をひとつ消していき、百話めを語り終えた時に生まれる闇の中に、必ず怪異が顕われるというもの。
■1998年 秋 ───奈良市内 ホテル
東京都立 真神学園高校ご一行様 宿泊中
修学旅行の宿につきものの娯楽といえば、定番がいくつかある。トランプなどのゲームや雑談、土産物屋のぞきなど他愛ないものから、教師のカミナリ必至の枕投げに、夜間の脱走、それに(京一がやった)女風呂覗きまで、まあお決まりといえばお決まりだ。
だが───規律違反以上に、醍醐雄矢がどうしても許せない娯楽が、ひとつあった。
「...それでよ、そいつが運転席の足元を見るとさ...」
「......」
なにも、ここでやらなくたっていいではないか。
「幽霊が、そいつの足を掴んでたんだって」
「ひえーッ、それってマジこえーよ!」
───怪談である。
よりにもよって、7班男子の部屋、つまり、自分たちの部屋に数人のクラスメートが集まり、面白がる京一を交えて怪談を始めたのだ。
和室に布団を敷き、その上にてんでに寝転がったり座ったりして、みんなそれぞれに楽しそうだ。怪談を楽しいというのも、変な話だが。
醍醐は、話そのものは怖くはない。それよりも、話が進むにしたがって漂い始める異様な空気が嫌いなのだ。
人よりも勘が鋭いせいか、彼は得体の知れない《気配》を感じることが多い。それが、幽霊とか妖怪と呼ばれるものなのかどうか確信が持てるわけではないが、わからないが故に余計に気味が悪い。久慈浦のように《視る》ことができるのなら、もう少し違った対処ができるのかも知れないが、目には見えないのにはっきりとその存在が知覚できるというのは、不気味きわまりない。
今しも、部屋にはどことなくひんやりした空気が漂い始めていた。嫌な感じだ。
醍醐は、チラと久慈浦を見た。
なにも変わった様子はない。気づいているのか、いないのか。いやそもそも、彼はさっきから聞き役に徹していて、どちらかというとあまり興味のないような顔をしている。
何か感じないか、と聞いてみたい気もするが、そうすると京一が面白がって醍醐を冷やかすだろう。それは、しゃくに触る。
ましてや、ここで部屋を出ていくわけにはいかない。
引くもならず、進むもならずだ。
「───あのさ、俺の友達が、そいつの兄貴から聞いた話なんだけどよ───」
どうにかしてくれ。
苛立つあまり、缶ジュースがカラになっていたのも忘れて、つい口に運んだ。
気のせいか、部屋の隅が薄暗い。
「...の近くに、マンションあるだろ? バブルん時にできた奴...」
それなら知っている。なかなか売れないのは、『出る』からだというのだ。
まったく、嫌いなものほど記憶に残るというのは、なんとかならないものか。
醍醐の隣に座っている久慈浦が、あくびをかみ殺した。ひょいと目をあわせると、肩をすくめる。
眠いのは、醍醐も同じだった。昨日の京都では、例の天狗騒ぎでホテルを抜け出し、その後大急ぎで戻ったものの消灯に間に合わなかったのをマリア先生に見つかり、大目玉を喰らったあげくロビーで正座させられた。バスの中で少々寝たが、やはり眠い。
ふいに久慈浦が、ことん、と醍醐の肩に頭をもたせかけてきた。目が半分になっている。
「...おい、斗吾」
「あー眠てえ。醍醐、背中貸して」
そういうと、久慈浦は彼の後ろに回り、その大きな背中に自分の背中を預けた。
困った奴だが、背後に久慈浦がいると思うと、かなり安心できる。伝わってくる体温が、情けない話だが、たのもしくて心強い。
久慈浦の《氣》は冷たいが心地よい。それも、熱のない炎のような、不思議な清廉さを持った強い《氣》だ。身体が密着することで、その《氣》が醍醐をも包み込んでくれているようで、先ほどまでの気味の悪さが嘘のように消えた。
助かった。醍醐は心の中で大きく息をついた。が───
「おいッ、アクマくん。寝てんじゃねェよ」
声をかけてきたのは、京一だった。
「だって眠いもん」
「ッたく、ガキか、おめェはッ───せっかく、消灯までまだ時間があるッてのによッ」
「そうだよッ。───あッ、そうだ」
クラスメートのひとりが、そういうと久慈浦を見てニヤリと笑った。
「お前の番だぜ、久慈浦」
「はぁ?」
「なんだよ、お前ならいっぱい知ってンだろ? こんな話...」
やめてくれ、頼むから。
醍醐はできることならそう頼みたかった。こいつが知っている話なら、冗談抜きで実話ではないか。
だが、クラスメートたちは口々に、久慈浦にも怪談をねだった。
「そうだよッ、お前、さっきから聞いてばっかりじゃねェか」
「そーゆー態度の奴がいるとさー、シラケるんだよね」
「別に、オバケが怖いッてわけじゃねェだろ?」
久慈浦は黙っている。眠い時のこいつは、かなり不機嫌、というか、感情がフラットになってしまうらしい。
彼は、ムッとしたような顔で警告した。
「でもさぁ───、こういう怪談(はなし)は、あんまり沢山やらない方がいいんだぜ? どうしても、集まって来るからよ」
「集まってって...何がだよ? まさか...」
京一が笑い飛ばそうとした時、部屋の外を、黒い人影がゆっくりと横切った。
障子の向こう側だ。そこは縁側のようになっていて、ソファと小さなテーブルが置いてあった。だが───縁側といっても、隣の部屋と繋がっているわけではない。
彼らは、慌てて居合わせたメンツを確かめた。増えたり減ったりはしていないようだ。つまり───あそこには、誰もいない。
障子に、手形のようなものが現われた。誰かが、外から障子を押さえている。
全員が身構えたその瞬間、久慈浦が指を唇にあてて短く口笛を吹いた。ピュッ、というその音は鋭く周囲に突き刺さり、障子に浮かんでいた手形が消えた。
京一が瞬時に立ち上がり、いきおいよく障子を開け放った。
───誰もいなかった。しかも、縁側は暗い。誰かがいても、影が映るはずがないのだ。
「チッ、俺もちっと寝不足気味かなッ」
ピシャリと障子を閉めながら、現実主義者の京一は毒づいた。寝ぼけたのだ、といいたいらしい。
「ヘヘヘッ───でもよ、これで雰囲気バッチリじゃねえか。なッ、アクマくん。そういうコトだからよ、ここはひとつ、面白いのを頼むぜ」
京一が、醍醐の方を盗み見ながら、笑って言った。他の連中も、怖いもの見たさでか、かえって目を輝かせている。
「.....しょうがねェな」
そういうと、久慈浦は背中を離して座り直した。
「ヘヘヘッ、そうこなくっちゃなッ」
勘弁してくれ。
醍醐はため息をついた。
「───俺が、前いた学校の話なんだけどよ」
みんなは、興味津々といった風で身を乗り出した。
「俺がいた学校って、けっこう新しかったんだけどさ、全ッ然使われてない非常階段ッてのがあったんだよ。校舎の外にね。でさ───そこが、マジでやべェの」
久慈浦の話というのは、こうだった。
彼が以前いた高校には、『出る』と噂される非常階段があった。校舎の外にむき出しになったコンクリート造りのそれは、当然、普段は使われていないのだが、その入り口には、わざわざだいぶ離れた所に鎖が張ってあり、入れないようになっていた。
日が暮れてくるとなおのこと、誰も近寄らない。その理由は───昔、そこで自殺者が出た、というものだった。鎖が張ってあるあたりは、ちょうどその、死体が墜ちた所だという。
しかも、その自殺した女生徒の霊が、今もそこにいるというのだ。
部活や補習で遅くなった生徒や、見回りの教師が何度も目撃している。非常階段の途中で、飛び下りようかどうしようか逡巡し続けている彼女の霊が、気付いた人間に向かって「どうすればいいと思う?」と聞いてくるというのだ。
自殺なんかよせ、と答えると「でもあたしはもう死んじゃったの...こんなふうに」といい、階段から飛び下りる。墜落する彼女の恐怖に歪んだ顔と、そして、地面に叩き付けられて肉片から脳漿すら飛び散るその死に様を、見せつけられる。しかも、グシャグシャになった彼女が立ち上がり、こちらへとやって来たという話もある。
それではというので、死ねばいい、と答えた者がいた。すると───「じゃあ一緒に死んで」という声とともに、凄まじい形相の彼女が襲いかかって来て、その生徒を道連れにしたという。
「......」
久慈浦が口をつぐんだ時、京一たちは声も出なかった。
怪談そのものが怖かったのではない。それよりも───『一緒に死んで』という女生徒の言葉を語った久慈浦の声にオーバーラップして、確かに、身の毛もよだつような少女の声がしたのだ。
一緒に...死んで...と。
醍醐は、身震いを抑えようとしながらそっと周囲をうかがった。
誰も動かない。同じように、なにかそういう仕掛けがしていないか、あたりを探っている。
「こッ...怖ェ〜!」
重苦しい雰囲気をはらうように声をあげたのは、やはり京一だった。
「やだなァ、やっぱアクマくんだぜッ。今までの中でいちばん怖かったぜッ」
「そッ、そうだなッ」
「うわ〜、俺トリ肌たっちゃったよ」
「語りがうめーよ、お前」
京一の声に勇気づけられたか、クラスメートたちは口々にそういって笑い出した。
「まだ終わってねェよ」
久慈浦の声に、一同は再び凍りついた。
「今までのは、聞いた話───。こっからが、俺の」
「う...」
彼らは、久慈浦が笑っているのに気づいて、心底震え上がった。
口元だけがつりあがり、笑った形をしている。だが、目は三白に固まったまま、じっと彼らを見据えているのだ。こんな久慈浦のほうが、よっぽど怖かった。
「俺も見たんだよ───その、女の幽霊をな」
それは、久慈浦が一年の頃だったという。
夕刻、ずいぶん遅くなってから、下校しようとする久慈浦が、その問題の非常階段の下を通りかかった時だ。
そこに、人影を見つけた。
ふと顔を上げて───しまった、と思った。
彼の目には、それがこの世の者ではないことがわかったからだ。
女生徒の霊は、久慈浦がこちらを見ているのに気づき、ゆっくりと口を開いた。
「ねえ───」
向こうは、5階建ての校舎の4階にいるにもかかわらず、低く消え入りそうなその声ははっきりと聞こえ、死相を浮かべたその蒼い顔も、鬼気迫るその表情も、間近にいるかのように伝わって来た。
「あたし───どうしたらいいの?」
「......」
久慈浦は答えなかった。だが、彼女は続けた。
「死にたかったの...」
「......」
「死にたかったのよ...」
「......」
「ねえ...あたし、どうしたらよかったの?」
女生徒の霊は、久慈浦を手招いた。ゆるゆると白い手があがり、ゆっくりと上下した。
「ねえ...」
「あんたはどうしたんだ?」
久慈浦は、きっぱりとした声でそう訊ねた。
「死にたかったから、死んじゃったんだろ?」
今度は、彼女が黙り込む番だった。
「今頃後悔しても、遅いんだよ」
「......」
「しょうがねェよ。あんた、ひとりで死んじゃったんだから。あんたがそう決めて、ここで、マジで飛び下りちまったんだから。もうどうしようもねェよ」
「......」
久慈浦と死霊は、階段の下と上で睨み合った。
「俺には何もできねェよ」
「......」
「だって、あんた、もう死んじゃったんだから。俺には何もできねェよ。とっとと諦めて、上に行ったら?」
そういいながら、久慈浦は、周囲に漂う雑霊を手で払った。彼女の存在と、それ以上に、それを知る生徒たちの『ここはヤバい』という思いの念が、ここにこんな悪い《場》を造り出した。既にここは、幽世(かくりよ:黄泉の国)と現世(うつしよ)の危うい狭間だ。なんとかしなければ、という思いが、久慈浦にはあった。
「行くとこがわかんねェのか? ───あっちだよ」
そういうと、久慈浦は天を指差した。月が出ていた。
雑霊のいくつかが、それを認めて、上がってゆく。行くべき所をようやく見つけたのだ。
螢のように昇ってゆく光たちを彼女は見上げ、泣きそうな顔をした。
それにかまわず、久慈浦は手を下ろした。
「明るい方へ行けばいいんだよ。今度こそ、自分で決めな───俺には何もできねェから。じゃあな。」
彼女の泣き声が聞こえた。
久慈浦は息をつき、短く、小さな声で、神語を奉唱した。
「───幽世の大神 憐れみ給い恵み給え 幸魂奇魂 守り給い幸い給え...」
そういうと、久慈浦は踵を返し、階段に背を向けて歩き出した。
「......」
今度こそ、一同は声も出なかった。
「...それで...どうなったんだよ?」
「どうもしねェよ。まだあそこにいる。たぶんね」
「いるのかよッ!?」
京一の声に、久慈浦は真顔でうなずいた。
「しょうがねェよ。そういう奴なんだから。───まッ、そういうワケだから、キミたちも何があっても自殺なんて止すことだね。ロクなコトになんねェからよ」
そう締めくくると、久慈浦はすっかりぬるくなった清涼飲料を口に運んだ。
「てなワケで。───もういいだろ? そろそろ寝よーぜー。俺、もうダメ」
そういうと、久慈浦はさっきのように、醍醐の背中にもたれかかってきた。
醍醐は一瞬ビクリとしたが、久慈浦の気配はいつもと同じ、暖かく包み込むようなそれに戻っている。それに勇気づけられて、醍醐も口を開いた。
「そうだな───そろそろ、消灯時間だろう。みんな、部屋に戻った方がいいぞ」
なにか言いたそうな面々に向かって、久慈浦が大きな音をたてて手を打った。
「はーいッ、お開きお開きッ。寝よ寝よ」
そういうと久慈浦はあくびをし、醍醐の背中に身体を預けてきた。このまま熟睡してしまいそうだ。それを見て、京一が苦笑いした。
「へッ、しょーがねェな。―――まァ、トリも飾ったし、俺たち、ゆうべ寝てねェからよ、この辺で勘弁してくれや」
「そッ、そうだな...」
「それじゃ、おやすみ...」
クラスメートたちはそういって立ち上がり、ぞろぞろと部屋を出ていった。
「...おい、斗吾」
醍醐は、寄り掛かったままの久慈浦に声をかけた。
「んー?」
「寝るなら、布団で寝ろ」
「わかってるよ」
そういいつつ、久慈浦はふいと立ち上がった。
「ッたく、こんなにしちまってよぉ...」
言うなり、彼は清清しいくらいの音を立てて2度、手を打ち鳴らし、合わせたその手を顔に押し付けるようにしてじっと部屋を睨んだ。
「───神火清明、神水清明、神風清明―――」
三度、それを奏上すると、彼は三方に向かって鋭く息を吐いた。
《祓え》、だ。部屋の空気が一変する。
怪談にひかれて集まっていた《何か》が、一気に退散したのがわかった。
「やれやれ、これで落ち着いて寝られる」
久慈浦がそういって伸びをした。
まったくだ。
京一が、端っこの布団の上で大あくびをしながら、醍醐に向かってニッと笑った。
「ヘヘッ、醍醐(タイショー)、寝る前にちゃんと小便行っとけよ。夜中にひとりでトイレに行かなくていいようになァッ」
「やかましいッ」
そういうと、醍醐も自分の布団に寝転がった。
久慈浦が部屋の照明を消し、真ん中の布団に潜り込んだ。
「おやすみー...京一、頼むから俺の方に転がって来るなよッ」
「うるせェッ。アクマくんこそ、醍醐(タイショー)に襲われないようにしろよッ」
「なに、バカ言ってんだか...」
部屋は、すぐに静かになった。
だが───ずいぶんたっても、醍醐はなぜか眠れなかった。
別に、怪談が思い出されて怖いというわけではない。ただ、なぜだか眠くならないのだ。
真っ暗な室内で二転三転しながら、彼はいたずらに京一と久慈浦の寝息を聞いていた。
いま、何時だろう。
そう思った時、部屋の外、廊下の奥の方で、柱時計の音がした。
ボーン...ボーン.....その後は静かだ。2時、というわけか。
丑三つ時である。
やれやれ、と思った瞬間、かすかに床が揺れた。
「(なんだ...地震か?)」
醍醐は、起き上がりもせずに周囲の様子をうかがった。この程度の地震なら慣れている。
だが、それはあたかも巨大な足音のように、短く、断続的に続いた。
よく見ると、建物全体が揺れているわけではない。床が振動しているのだ。
ズズン...ズズン...という気味の悪い振動は、しばらく続いた。
久慈浦が目を醒ましたのか、身を起こす気配がした。
「斗吾...」
「うん...地震か?」
そういった久慈浦が、ハッと身を硬くした。
「やべェな───来るぜッ」
地震の揺れではない。それは───やはり、巨大な足音だったのだ。
実体を持たない何かが、暗いこの部屋を横切っていく気配がした。
ズズン...ズズン...という音が、はっきりと彼らの周囲を横切り、ついで遠ざかっていく。
「チッ───それでも寝てるかよ、京一の奴ッ」
「うるせェ」
久慈浦が毒づいたのへ、京一の悪態が答えた。やはり、起きていたのだ。
「ッたく、なんなんだよ、一体ッ。人がせっかくイイ夢見てたのに───ッ」
足音が消えた、直後、部屋の中に、枯れ木を折るような、何かがはじけるような異様な音がし始めた。
「これは───ッ」
「あ、ラップ音だ」
「なッ、なにッ?」
久慈浦の平然とした声に、醍醐はかえって動揺した。
ラップ音(元々の心霊用語は「ラッピング」)とは、明らかに非人間的で肉体を持たないところから出てくる、心霊特有の騒音を指す。ラップ(rap)とは元々、コツコツ叩くという擬音語で、rapという言葉自体にも、ノックに似た音による霊からの交信という意味がある。
つまりこれは、立派な心霊現象ではないか。
ついで、ガターンッ、という大音響が響いた。それを認めた久慈浦が平然と説明する。
「で、今のが、ポルターガイスト(騒霊)っつってな」
「おッ、落ち着いてる場合かッ!」
「まあ落ち着けよ。ポルターガイストには二種類あるんだ。ひとつは本物の霊、そしてもうひとつは、暴走する人間の《力》、特に、思春期の人間の強い感情が引き起こす、一種のサイキック現象さ。だから───まあ落ち着け」
「じゃぁお前、これは醍醐(タイショー)がやってるっていうのかよ?」
京一の声に、久慈浦は首を振った。
「いや、醍醐のせいだって言い切ることはできないな。だって、修学旅行の宿なんだぜ、ここは? 慣れた環境を離れて、無意識に緊張している思春期の少年少女の団体なワケじゃねェか、特定なんかできないよ。でも、まァ───だから落ち着けって、醍醐」
そういうと、久慈浦は焦る醍醐の肩に両手をかけてなだめた。
「たいした奴じゃないからさー...ほっといて寝ようぜ」
「おッ、おい!」
たいした奴じゃない、ということは、明らかに『いる』ということか。慌てふためく醍醐に、久慈浦は抱き着くように腕を回し、その背中を軽く叩いた。
「いいから、気にすんなって。相手すると、つけあがるからよ」
そういわれると、そうすべきなのだろうが、なにせラップ音とポルターガイストはひどくなる一方だ。落ち着けという方が難しい。その証拠に、京一までがソワソワしている。
「でもよォ、アクマくん───、これって、一気にカタ着けちまった方が、いいんじゃねェか?」
「あのなァ京一...」
久慈浦が制止しかけた時、ガタガタガタッ!! という激しい音がした。
先ほどの障子に、無数の手形が現われて、それが障子を激しく揺さぶっている。
飛び上がりそうになる醍醐を、抱きしめている久慈浦の腕がきつく押しとどめた。
「落ち着け、醍醐。動揺すると、つけ込まれるぞ」
声が、マジだ。つまり───ヤバいということだ。
「アクマくんッ! これでも、ほっとけっていうのかよッ!」
「チッ───、しょうがねェ」
久慈浦は、回した腕に一度だけ力をこめると、するりと醍醐から腕を離した。
「んじゃ、京一、手を貸してくれ。俺が実体化させっからよ、出てきたら、かまわねェから、叩ッ斬っちまってくれ」
「ッて、俺にだけ肉体労働させる気かよッ!?」
「しょーがねェだろッ。だって───」
そういうと、久慈浦と京一は、醍醐の方を見た。
「う...」
「クソッ、わかったよ!」
口ごもる醍醐に腹を立てた京一が、枕元に置いていた木刀をひっつかんだ。
「醍醐ッ、手を出せッ」
久慈浦が、有無をいわせず醍醐の手を取ると、その指をある形に組ませた。
「《隠形之印》だ。こうしてれば、彼方(あっち)からはお前が見えない。───いいか、絶ッ対に、手を離すなよッ!!」
そういうと久慈浦は、バッグの中から、彼がいつも持っている神社の護符を取り出し、これも持ってろ、と醍醐の懐にねじ込んだ。密教と神道がちゃんぽんだが、久慈浦にはいつものことだ。
「いくぜ、京一ッ!!」
「ヘッ、面白ェ!!」
ホテルの浴衣でそういってもサマにはならないのだが、とにかく二人は、すでにはっきりとした形を成しはじめている《怪異》に向かった。
久慈浦が、よく通る声で祓詞を奏上した。
「
高天原に神留坐す 皇が親 神漏岐命 神漏美命 以ちて八百万の神等を 神集えに集賜い 神議りに議り賜いて 我が皇御孫命は豊葦原水穂国を安国と平けく知食せと事依奉りき───」
部屋の隙間という隙間から、闇よりも黒い霧のようなものが、ジワジワと這い出して来ている。それとも、久慈浦の祓詞で、引きずり込まれているのか───
京一が、木刀を構えたまま、右足の指だけで畳をにじっている。浴衣の裾を片方からげ、帯にたばさんだ格好は、まるで時代劇の剣客そのものだ。ホテルの浴衣でなければ、だが。
「
種種の罪事は 天つ罪 国つ罪 許許太久の罪 山でむ、出でば天つ宮事以て 天つ金木を本打ち切り 末打断ちて 千座の置き座に置足わして 天津菅麻を本刈断 末刈切りて 八針に取辟きて 天つ祝詞の太祝詞を───」
その間にも、なす術のない醍醐の周囲には、得体の知れないものどもの気配がウロウロしていた。あちらからは醍醐が見えない、ということは、そこにいないものとして扱われているということだ。つまり───避けてなどくれないのである。
醍醐は、おぞ気を必死で抑えながら、自分の周囲をウロつくものどもを感知しまいとした。
「
此く佐須良い 失いてば 罪と云う罪は在らじと 祓給い清給う事を 天つ神 国つ神 八百万神等 共に聞食せと白す。─────京一、今だッ!!」
「でやあああッ!!」
ひとところに集まり始めたそれを気合い一閃、京一の木刀がぶった斬った。
だが、黒い靄がバッと散った瞬間、今度は頭上から、ドォォン、という大音響がした。
「やべェッ、新手だッ!」
「クソッ、どうすんだよッ、アクマくんッ!」
その時、ザワリ、と何かが醍醐の身体に触れた。
「うわッ!」
あまりにも異様な感触に、彼は思わず《印》を結んでいた手を離してしまった。
「おい、醍醐ッ!!」
久慈浦が、飛びかかった。座っていた醍醐の頭上の空間を、刀印で一閃する。
「離すなって言ったろ!!」
「すッ、すまん...」
かばうように抱き着かれたまま、醍醐は慌てて、詫びた。そう───さっきから、やたらと久慈浦が彼にくっついていたのは、彼を《怪異》から隠していたのだ。
「チッ、しょーがねェ奴だなッ!!」
木刀で嫌な《氣》を薙ぎはらい、ふたりをかばいながら、京一が毒づいた。
「ッたく、なんで、醍醐(タイショー)ばっか狙われるんだよッ」
「よっぽど前世が悪かったんだろ」
「ヘッ、前世ねェ───んじゃ、この石頭(カタブツ)ぶりなら、さしずめ禁欲のカタマリの僧侶(ボウズ)ッてとこかなッ」
「それならお前は、吉原あたりをフラフラしてる、遊び人の京サンだ」
「あのなァ!! ───おおっと!!」
なおも軽口を叩こうとした京一が、危険な気配を避けようとして床に伏せた。
久慈浦の両手が塞がってしまうと、文字どおり、手も足も出ない。醍醐は、己の不甲斐なさに歯がみした。
作戦ミスを悔やんでいるのは、久慈浦も同じらしかった。
「そうか、僧侶(ボウズ)、ね。───醍醐ッ、俺がいまから言う台詞を覚えろッ」
久慈浦は、素早く醍醐の背後に回ると、両手を回してもう一度彼の手をとった。
軽く合掌させ、両の中指だけを少し離す。
「蓮の花の蕾みだ。───すべてのものの本質は清浄なのだから、自分もまた清らかだ、と考えろ。で、こうだ───オン・ソハハンバ・シュダ・サラバ・タラマ・ソハハンバ・シュド・カン」
「おッ、おい...」
「ちゃんと聞いてろッ。次ッ」
小指を合わせたまま手を開かせる。如来の加護を願う印だという。
「オン・タタギャタ・ドハンバヤ・ソワカ───」
次にその印を閉じ、小指同士と親指同士を合わせたまま他の指を開き、花のような形を表現する。蓮華部の諸尊の加護を願う印だという。
「オン・ハンドモ・ドハンバヤ・ソワカ───」
そこから右手の平を返し、下向きにした左手の上に重ねながら、小指と親指同士をしっかりと組む。金剛仏が持つ武器の形だという。
「オン・バゾロ・ドハンバヤ・ソワカ───」
最後に、小指と薬指を手の内側に組み、中指同士の先を軽く触れさせて、他の指は自然に伸ばすようにした。甲冑の頭飾りを意味し、これで、身を浄め、仏の加護を得、知恵の甲冑をまとって不動心を得て、魔を切るのだという。
「オン・バザラギニ・ハラジ・ハッタヤ・ソワカ───。さッ、やってみろ」
「う...」
なにやら、気恥ずかしい気もしたが、ここで何か言える立場ではない。
醍醐は、久慈浦の声に合わせるようにして、ひとつひとつ真言を唱えて印を結んでいった。
不思議なことに、思ったよりスムーズに印が結べ、真言もつかえずに言えた。唱えるうちに、気持ちも落ち着いてきた。
不動心、という言葉が気に入ったのもある。
醍醐は、金剛部三昧耶から、最後の被甲護身を終えると、一拍手して右・中・左と、身体の前で《魔》を切るために三度、小気味よい音を立てて指を鳴らした。
「やるじゃん───。よしッ、行くぜ、醍醐ッ! 攻撃は最大の防御なり、だ!!」
「おうッ!」
久慈浦に促されて、醍醐も立ち上がった。こんな異常事態を、ほうっておくわけにはいかない。
頭上からの大音響は、続いている。三人は、何者かが叩き付けているような天井を見上げ、じっとタイミングをうかがった。
ドォォン、ドォォン、という音は続き、ついに、真っ黒い巨大な手が、天井を突き破って三人の真ん中に突っ込んできた。
「行くぞッ!!」
「よっしゃ!!」
三人の気迫に気づいた《手》がひるんだが、遅かった。
「破ァァァァァッ!!!」
久慈浦と、醍醐と、京一の気迫が唱和した。直後、三人の《力》がすさまじいエネルギーを得て《手》を包み込み、爆発を思わせる圧力を放った。
「ギャアアアアアッ!!」
圧倒的な光の中で、《手》は消え、そして──────
■奈良市内 ホテル 3─C
7班男子の部屋 ───朝
ハッと醍醐が我に帰ると、心地良い布団の中だった。
窓の外は明るい。スズメのさえずりが聞こえる。
布団に入った記憶などない。醍醐はぼう然として身を起こし、何事もなく、平和そのものの室内を見回した。
久慈浦も京一もまだ夢の中だ。京一の木刀は、昨夜と同じく枕元に置かれている。蹴散らしたはずの布団の位置も、荷物の場所も、何ら変わってはいない。無論、天井に穴など開いていないし、壁や障子に手形が残っているわけでもない。
「あれは...、何だったんだ?」
ふたりの寝顔を見ながら、醍醐はつぶやいた。
京一はだらしなく熟睡中だし、久慈浦も安心しきった様子で寝息をたてている。いつだったか京一が、久慈浦は時々おもいがけなく無防備な仔犬のような顔を見せるといっていたのを、醍醐はおもいだしていた。確かに、そんな感じだ。
「ん...ッ」
久慈浦が寝返りをうち、ついで薄目を開けて、自分を見下ろしている醍醐を見た。まだ眠そうだ。
「おはよ...醍醐」
「あッ、ああ...おはよう」
「早いな...今、何時?」
寝ぼけ眼で枕元に置いていた腕時計を引き寄せた久慈浦は、液晶を見て、げッ、とつぶやいた。
「早すぎるよォ...」
そのままことん、と枕に顔を沈めて寝直そうとするのへ、醍醐は慌てて声をかける。
「おッ、おい、斗吾!!」
「えッ...なに?」
布団に腹這いになったまま、久慈浦は上目づかいに醍醐を見上げた。叱られて不服そうな犬に似ている。
「その...昨夜のことなんだが...」
「ゆうべ?」
いいながら、久慈浦はあくびを噛み殺した。片手で目をこする。
「あァ...怪談話のこと?」
「いッ、いや、そうじゃなくて...」
「そういえば醍醐、よく眠れたな。俺はてっきり、怖くてトイレにも行けないかと...」
「なんだとッ!?」
醍醐の剣幕に、久慈浦は文字通り跳び起きた。
「斗吾、いま何といった!?」
「あッ、ご、ごめん!! おッ、俺は決してそんなつもりじゃ...!」
いいながら、久慈浦は京一の布団の方へ後ずさる。
「そうじゃないッ。お前、俺が眠ったといったな!?」
「きょッ、京一ッ!! 寝てねえで助けろッ!!」
「わッ!! なんだ、なんだッ!?」
久慈浦に飛びつかれて、京一が目を醒ました。彼が最初に目にしたのは、ひきつった顔で彼にしがみついている久慈浦と、それへ真顔で迫っている醍醐だった。
「おッ、おい、醍醐(タイショー)!! ちょっと待てッ!! 早まるなッ!!」
京一は、久慈浦を抱きかかえるようにしながら醍醐を止めた。
「お前ッ、こんな朝ッぱらからナニやってんだよッ!! それに、いくら溜まってるからッて、斗吾(やろう)を襲うこたァねえだろッ!! そりゃ、そーゆーのは個人の自由だがよ...」
「誰がだッ!!」
京一のあらぬ誤解に、とうとう醍醐は雷を落とした。
「バカかお前はッ!!」
久慈浦が、ほとんど同時に京一をぶん殴ったのはいうまでもない。
「だからァ...」
京一が、何度めかのため息をついた。久慈浦がたたみこむ。
「昨夜はみんな、あの後すぐに寝たってば...」
「夜中に目を醒ましたりはしなかったと...そういうんだな?」
納得のいかない醍醐が切り返すと、ふたりは揃って不満そうにうなずいた。
「醍醐なんざ、あーッ、という間に熟睡しちまったじゃねェか。いびきまでかいてよッ」
寝起きの上にあの後フトン蒸しにされて機嫌の悪い京一が毒づくと、寝グセ頭を早く直したくてしょうがない久慈浦が、髪をいじりながら口をとがらせる。
「そうだよッ。俺はてっきり、怖くて眠れないかとおもってたのにさッ」
「俺が、か...? しかし...」
醍醐は困惑して自分の手に視線を落とし、何気なく指を組んだ。ひとつめ、ふたつめ...指は自然に動き、あの印を結んでいく。それを見て、久慈浦が声をあげた。
「あれぇ...醍醐、密教護身法なんて良く知ってるな」
「なにッ?」
醍醐は驚いて久慈浦を見た。しかし、久慈浦の答えは、彼の期待とは違っていた。
「龍山先生に教わったのか?」
「......」
「なんだよ、それ」
京一がのぞきこんできた。久慈浦が説明している。
「護身法ッていってな。密教の修行僧が《魔》と出くわした時に切るんだ。まァ...忍者が切ってる九字と同じようなモンだ」
「ふ〜ん。俺にはよくわかんねェな」
「フフフッ、はなッから京一(おまえ)向きじゃねェよ」
そう笑って、久慈浦は醍醐の方へ向き直った。
「まッ、これは、嫌いなのに引き寄せちまう、醍醐向きかなッ。でも、どこで覚えたんだよ?」
「斗吾...これは、お前が教えてくれたんだぞ?」
「うそッ?」
きょとんとする久慈浦と、そして京一へ、醍醐は自分が見たものを話さねばならなかった。
「ふ〜ん...やっぱり、覚えてねェな」
「...俺も」
「......」
顔を見合わせる久慈浦と京一に、醍醐はとっくにいうべき言葉を失っていた。
「やっぱり、夢でも見たんじゃねェのか? ───それより、そろそろ朝飯の時間だぜッ」
「あァ...もう、そんなになるか。行こうぜ、醍醐」
「あッ、ああ───そうだな。そうするか」
醍醐が立ち上がった時だ。懐から、パサリ、と何かが落ちた。
「あッ!? ─────醍醐、それはッ!?」
久慈浦が愕然としてそれを見た。醍醐の懐から落ちたそれは、久慈浦がいつも身につけている神社の護符だったのだ。
「......」
三人は黙りこんだ。ずいぶんな間があって、最初に口を開いたのは、醍醐だった。
「斗吾...これは、返しておこう」
そういって、彼は久慈浦に護符をさしだした。
いったんはそれに手を伸ばしかけた久慈浦は、笑って首を横に振った。
「...お前にやるって、そういったんだろう、俺は?」
「斗吾...」
「いいから、持ってろよッ───なんだったら、爺ィ様にいって、今度からお前用にも作ってもらうからさッ」
「そうか...ありがとう、斗吾」
「なんだかよくわかんねェけど───よッと」
京一が、ふたりの方を振り返った。
「とりあえず、朝飯を食いに行くかッ」
■ホテル 1階 食堂
「アクマくん、おかわりッ」
「京一...さっきから、なんで俺がついでやってんだよッ」
「そりゃお前...モグモグ...飯のそばにいるからだよ」
「ちェッ、ほらよッ───ッて、どさくさまぎれにひとのオカズとるなよッ、お前はッ!!」
「お前ら、少し静かに食えんのか...」
「まったく、もう。子供(ガキ)なんだから、ふたりともッ」
「うふふッ、京一くんったら...」
京一と久慈浦のやりとりに、醍醐と、小蒔に美里が苦笑いしていると、昨夜の怪談仲間が通りかかった。
「あッ、お前ら...」
「よおッ、おはよう」
「おすッ」
「おはよう、よく眠れた?」
美里の微笑みに、男生徒たちは顔を見合わせた。
「...それが...」
「...なァ」
「んッ? どうしたんだ?」
その様子に醍醐が訊ねると、寝不足で目を赤くした彼らは、ボソボソとつぶやいた。
「...それが、あの後も、一晩中ヘンな音とか、気持ち悪いモンとかがウロウロして...」
「...あんまり、ッていうか、全然、眠れなかったんだよ...」
「えッ!? それって、出た、ッてコト?」
「ちょっと、小蒔ッ」
なぜか嬉しそうな小蒔をたしなめる美里を、黙って飯をかきこんでいた京一が止めた。
「よせよせッ。───お前ら、旅の疲れで、寝ぼけただけじゃねェのか?」
「そッ...そうだな。あまり、気にしないことだ」
「...そうだな...」
醍醐にも言われ、男生徒たちはうつむいた。久慈浦が追い討ちをかける。
「───だからいったろ、やめとけッて」
「...うん、久慈浦のいったとおりだぜ」
「...でも、あんなにひどいなんてなァ...」
昨日の勢いはどこへやら、すっかり青ざめている彼らに、久慈浦は平然といった。
「それよりお前ら、早く飯食わねェと、集合に遅れるぜ」
「あッ───、いけねェ。じゃ、また後でな」
「......」
醍醐が黙ってそれを見送っていると、小蒔が興味津々といった顔で、久慈浦を覗き込んだ。
「へェ〜ッ...一体、なにを見たんだろ? ねェ、アクマくん?」
「......」
だが、久慈浦はもくもくと飯を食うばかりだ。その様子に、醍醐と京一はピンとくるものがあった。京一が睨みつける。
「...アクマくん、お前、まさか───」
「...だって俺、最初ッからああなるのがわかってたからさ」
「なにッ? お前、撃退したんじゃなかったのか!?」
醍醐の驚きに、久慈浦はまだ飯をほおばりながら、苛立たしげに言い放った。
「ホンモノの退魔師じゃあるまいし、完全に消すなんてできるワケねぇだろッ。俺ができるのは、よそに移ってもらうことぐらいさ」
「よそに...ッて、えーッ!? それじゃ、お前、あいつらの───ッ!?」
「シッ!! 声がでけェよッ」
思わず声をあげる京一を制し、久慈浦は毒づいた。
「初日も寝れなかったのに、今日も寝不足じゃ、アッタマくんじゃねェかよ。だから、言い出しっぺに責任とってもらったってワケ」
「おッ...お前という奴は...ッ」
醍醐が絶句すると、京一もつぶやいた。
「あ、悪魔だ...」
「...なにをいまさら。だから、ちゃんと名乗ってるじゃねェか、俺はアクマだッて」
しれっとそう言ってのける久慈浦に、こいつだけは敵に回すまいと誓う、醍醐と京一であった。
───百物語の最後に現われる怪異とは...
久慈浦のことだったのかも知れない......